戦略日記
物事には順序がある #206
中国古典『大学』の一節に、「物に本末あり、事に終始あり。先後する所を知れば、則ち道に近し」という教えがあります。
これは、物事には根本と枝葉、始まりと終わりがあり、その順序を理解して行動することが大切だ、という教えです。この教えは、現代の経営にも通じる重要な示唆を与えてくれます。
企業経営においても、本質を見極め、優先順位を明確にすることが重要です。目先の利益や短期的な目標に囚われてしまい企業の根本的な価値や存在意義を見失ってはなりません。
* 本(根本): 理念やビジョン、顧客への提供価値など、企業の根幹を成すもの。
* 末(枝葉): 売上や利益、組織の成長など、経営活動の結果として現れるもの。
「末」は「本」があってこそ存在します。目先の「末」を追いかけるあまり、「本」をおろそかにしては持続的な成長は望めません。常に「本」を意識し、それに基づいた経営判断を行うことが大切です。
わかりやすく言えば、「物事の順序」には、原因、経緯、結果という要素が含まれていることになります。この順序が違えば、自ずと結果も狂ってしまいます。
ランチェスター戦略で考えれば、本となる原因は志や理念、ビジョンであり、経緯は原因を実現可能とする戦略となり、結果は戦略を具現化させる戦術ということになります。
例えば、レストランへ食事に行って、料理が出されてからメニューを見せる店はないと思います。ところが経営活動には、このような逆転現象が自社内に往々にして見られる上に、経営者自身が自覚していない場合があります。
戦略がなく(または知らずに)、無計画や思いつきで経営をしていると仕事の流れは逆流します。目に見える戦術ばかりが先行し、前後の作業から仕事をつなぎ合わせていくことになっていきます。
経営全体のプロセスの全貌が頭になく、組み立てられていないので仕事が順序だって流れません。いわば部分や断片をつなぎ合わせるパッチワークのような仕事になってしまい、手待ち、手戻りやミスが多発し、いつゴールにたどり着くかもわかりません。当然、業績は悪化し、計算が立たない経営となってしまいます。
私が若い頃、上場企業で電気設備工事の現場監督をしていた頃、「段取り八分、実行二分。計画は綿密周到にせよ」と上司から口酸っぱく指導を受けました。
全ての結果は、事前の準備や段取りで決まります。これをリーダーが組織として統率し、ゴールに導くことが大変重要な役目となります。
戦略がない状態で戦術はあり得ません。これだと的がなく、ゴールがないマラソンをひたすら走っていることと同様で疲弊していくだけになります。まさに本末転倒と言えます。「物事には順序がある」が理解できないから、支離滅裂でやりたい放題の経営となります。
経営の最高責任者であるならば、物事には順序があるように、経営にも順序があることを知る必要があります。