戦略日記

2枚の名刺を出す社長 #192

2枚の名刺を出す社長 #192

名刺交換の際、相手から2枚の名刺をもらうことがあります。1枚目は本業の名刺、2枚目は別会社となる事業内容の名刺というパターンです。あるいは、1枚の名刺の裏面に様々な事業内容が記載されている場合もあります。

2枚目の名刺を見ると、本業とは全く関連性のない事業内容であることが多く見受けられます。「なぜこのような事業をされているのですか?」と尋ねると、多くの場合「シナジー効果を狙っている」「昔から好きなことだから」といった回答が返ってきます。他に特徴的なことは色々と多岐に渡って事業をしているのに社員数が少ないことです。

総じて、人材、資金、時間などの経営資源が限られている中小企業(零細企業)は、事業の多角化によってこれらの資源が分散してしまうと、既存事業への集中力が低下し競争力を失っていきます。

特に新規事業への参入には、既存事業とは異なる専門知識や経験が新たに必要となります。ましてや新規参入事業の世界には、これを専門として既にシェアを獲得し、競争優位に立つプロ中のプロが存在しています。これらライバル企業との戦いに、素人同然の新規参入者が勝てる確率は極めて低くなります。そして異なる事業間のシナジー効果を経営資源が少ない条件で創出するのことは容易ではありません。

「商品変えても客層変えるな。」という格言がある通り、多角化によって事業を増やすことは、異なるお客を増やすということになります。経営で最も苦労することはお客づくりであり、これに投資していくお金と時間が余分に必要となります。そして、マネジメントやオペレーションなど経営管理が複雑化していくので既存事業を含め、経営の仕組みづくりがままならない状態となり経営の効果性を上げることは極めて難しくなります。

本業である既存事業が上手くいかないので、新たに理由付けして多角化した事業も結果、中途半端になってしまうことは目に見えています。「好きなこと」と「勝てること」は必ずしも一致するわけではないのです。

色々やっていますという社長は、周囲から多少の賞讃を受け、カッコよく見られますので「まだ、何とかなる。」と自己暗示がかかり、撤退するタイミングを見失い、決断できずにズルズルと消耗戦に陥ります。気づいた時は、既に遅しとなってしまいます。

「二兎を追うものは一兎も得ず」「事業と屏風は広げ過ぎると倒れる」のです。