戦略日記

理念に覚悟を持つ #230

理念に覚悟を持つ #230

「人を幸せにする」「社会に貢献する」。多くの中小企業がこうした経営理念を掲げています。言葉自体は美しいが、どこか物足りなさを感じるのはなぜでしょうか。それは、こうした理念があまりに画一的で、経営者の「覚悟」や「本気」が伝わってこないからと思います。

本来、経営理念は企業の存在意義を明確にし、判断の基準となる旗印であるべきです。だが多くの場合、理念は「世の中によくある言葉」に収まり、具体性や独自性を欠いている場合があります。誰に、どのような方法で、どんな価値を提供するのか。その問いに答えられない理念は、社員にも顧客にも響きません。

覚悟ある理念は、メッセージが尖っていて意味の深さを感じます。たとえば「価格競争はしない」と宣言する企業や、「地域の若者の雇用にすべてを注ぐ」と決めた会社は、その言葉に行動が伴っています。

だが、理念が立派でも、それだけで事業が成功するわけではありません。理念を「実現する力」が求められます。ここで思い出したいのが、兵法書『孫子』の一節です。

「算少なきは勝たず」すなわち、戦いにおいて準備や計算が不足していれば勝てないという意味です。算とは、資源、戦略、情報、資金、組織の要因であり、勝利の条件を指しています。

これは経営においてもまったく同じであり、いかに崇高な理念を掲げようとも、それを支える戦略と準備がなければ実現不可能となります。誰に、どんな価値を、どの市場で、どのように提供するのか。それを緻密に組み立て、現場に落とし込み、継続的に実行する力がなければ、理念は絵に描いた餅で終わってしまいます。

理念は、戦う理由でもあり企業が進む方向を表します。さらには、経営者の原体験や想いがにじみ出た理念には、飾りではない重みがあります。だからこそ、心を動かし、人を惹きつけます。今一度、理念に覚悟はあるかを問い直してはいかがでしょうか。